リベラルアーツカフェ138
びぶりおカフェ~本とあなたと私と~
びぶりおカフェ~本とあなたと私と~
サイエンスらいおんカフェ・リベラルアーツカフェでは、宇都宮市立東図書館で参加者がお薦めしたい科学に関する本を紹介し合う回や、本についての哲学対話回を開催してきました。今回はオンラインですが、このシリーズ回となります。
前半は、それぞれの参加者の「足元にある本」や「バイブル」から、多岐にわたる書籍が紹介されました。
宮部みゆき『火車』
紹介者のバイブルであり、個人情報保護法が生まれるきっかけになったのではないかと語るほど若い頃に感銘を受けた作品です。外国語(中国語・英語)の勉強のために翻訳版も読んでいるほか、原作の結末と本人が自殺する韓国映画版との結末の違いなども追加で紹介されました。
他の参加者からは、本作のようなミステリーが「都会における個人の喪失」や「現代社会の隙間、やむにやまれぬ犯罪者の悲哀」に確実に光を当てている点に宮部作品の素晴らしさがあるとお話されていました。
松村圭一郎『はみだしの人類学』
紹介者からは、かつて植民地主義的であると学会から自己批判された文化人類学が、現代においていかに変容したかを解説しました。他者への理解を通じて自他の境界を溶かし、自分たちの文化を相対化する重要性が書かれています。さらに、あらかじめ隠れた前提を持つ理系の「定量的モデル」に対し、フィールドワークは「想定外の体験」を通じて本質にアプローチする「定性的方法論」であるという決定的な違いを語りました。
島崎藤村『破戒』
紹介者が中学1年生の時に読んで「光と影」の存在について多大な衝撃を受けた小説として紹介されました。別の参加者はこの作品のタイトルについて、何かを壊す「破壊」ではなく、戒めを破る「破戒(破戒僧など)」であると漢字を見て初めて知った驚きを語りました。
三浦綾子『ちいろば先生物語』
戦中、大陸へ渡り軍国主義教育を行っていた教師(江本安郎/榎本康郎氏)が、戦後に自らの教育を省みてクリスチャンの牧師になる姿を描いた分厚い物語として紹介されました。
太宰治『ヴィヨンの妻』
太宰治の長編は読んだことがないものの、紹介者が山本學氏の朗読CDで何度も聴いて座右の書としている短編です。だらしなく言い訳ばかりするダメな夫(人間失格の太宰自身を投影)に対し、天然でたくましく「生きてさえいればいい」とあっけらかんと嘘をつきながら生き抜く、戦前・戦中・戦後の日本女性のたくましさが描かれています。
国分功一郎『原子力時代における哲学』
パラパラとめくっていた中で見つけた「管理し続けなければならないのは管理できていないということ」という一節に、管理会社の仕事に関わっている自身の視点からも目から鱗が落ちたと紹介されました。
『罪と罰』(ドストエフスキー)や「図解よくわかる」シリーズ(への挫折)
紹介者は最近は読書から遠ざかっているとし、足元に読んだ記憶のない『罪と罰』や、大学入学前に買った「図解よくわかる量子力学」など(原理的に図解でわかるわけがないと自嘲)の挫折体験をユーモラスに語りました。
後半は、紹介された本をきっかけにお互いの知識やバックグラウンドが交差し、独自の文化論が活発に展開されました。
お葬式やお見舞い返しの「地方・地域差」
ある参加者は、栃木県ではお葬式で祭壇のど真ん中に「喪主」と書かれた札(あるいは飾り)をドーンと配置するのに対し、地元の山口・九州ではあり得ない(いただいた他人・会社関係の供物を中央に飾る)という習慣の差を提示しました。さらに、東日本(栃木)では入院のお見舞いなどにきっちり「半返し」をする文化があるのに対し、山口や九州は「もらいっぱなし」で助け合う傾向があると語りました。これに対し、別の参加者から「九州だが実際は6割返している」というコメントや、北海道の「会費制結婚式」の話題など、豊かな地域文化の事例が共有されました。
日本のアニメ、絵画、ポルノ文化の「独自性」
また別の参加者は、宮崎駿監督の『千と千尋の神隠し』を例に、「子どもが『この世界は本当にいい世界だ』と思えるように作られているのがアニメの1番良いところ」と語り、アニメが世界的に通用するアカデミックな文化であることを強調しました。また、吹奏楽に青春をかける若者を描いた『響け!ユーフォニアム』やそのスピンオフ映画『リズと青い鳥』(山田尚子監督)の、並大抵の小説を超える繊細な心理描写の素晴らしさを語りました。
他からは、西洋の「立体的な美」に対し、江戸時代(300年間戦争がなかった平和な成熟期)の浮世絵や村上隆の「スーパーフラット」、春画などに共通する日本の「影をつけずに平面で躍動感を表すフラットな美意識」の強さについて語られたり、世界的なポルノサイトで「変態(Hentai)」という日本語がローマ字のまま検索ワード上位に入っていることを紹介し、アニメを背景とした日本独自のエロティシズムや情緒的な表現が海外で一種の共通語になっているのではないかというユニークな考察がなされたりしました。
方言と土着性
松本清張の『砂の器』の東北弁、太宰治の『魚服記』の津軽弁、井伏鱒二の作品の岡山・広島の方言を挙げ、侵略の歴史が少なかった日本だからこそ、1000年以上のスパンで同じ土地に暮らす人々が育んだ「しみじみとした方言の美しさ」があるのではないかという意見や、これに同意し、柳田國男の『遠野物語』なども方言の塊で現代語訳なしでは読めないほどの土着性があると補足する話もありました。
音楽と洋の東西をつなぐ文化交流
吹奏楽・マーチングバンドの指導や作曲を行っている私からは、3年前に葛飾北斎をテーマにした自作曲で、後半にフランスの作曲家ドビュッシーの『海』のメロディを融合させたエピソードを披露。ドビュッシーの『海』は、鎖国時代ながら海外に渡った北斎の「富岳三十六景」の波の絵からインスピレーションを得て作られたとされており、東西の美しい文化交流の繋がりを表現したかったと話しました。
本という媒体を軸に、多様なバックグラウンドや経験をお持ちの参加者が集うことにより、多くの知見や見方が交差し、それぞれの視野を拡げることのできた一夜だったと思います。ご参加いただいた皆さま、ありがとうございました。
[文責:藤平 昌寿(リベラルアーツとちぎ 主宰)]
10月のファシリテーター:藤平 昌寿(ふじひら まさとし)さん
(リベラルアーツとちぎ代表・自治医科大学医学部客員研究員)
テーマ:びぶりおカフェ~本とあなたと私と~
日時:2024年10月29日(火) 20:00-21:30
開催場所:オンライン開催(zoom利用)
参加費:無料
定員:15名
お申込み:https://la-cafe138.peatix.com または表示のフォームから
※書籍紹介希望の方は、申込フォーム内の連絡事項欄に書籍名をご入力ください。
ご質問等は info@la-tochigi.net でも受け付けます。
サイエンスらいおんカフェ・リベラルアーツカフェでは、宇都宮市立東図書館で参加者がお薦めしたい科学に関する本を紹介し合う回や、本についての哲学対話回を開催しました。今回、オンラインですが、このシリーズ回となります。
今回はサイエンスに限らず、あらゆる分野でお薦めしたい本がある方はぜひご紹介ください(1人5分程度)。特に無い方はオブザーバーとして参加していただき、推薦された本について感想をお話したり質問したりしていただきます。
ビブリオバトルとは異なり、ただひたすら紹介と対話をするだけですので、お気軽にご参加ください。紹介者が多ければそれで時間が埋まりますが、少ない場合は残り時間を本や読書についての対話の時間に充てたいと思います。
平日の夜長に、新たな世界に出会えるかも知れません。どうぞお気軽にご参加ください。
from: 藤平 昌寿(リベラルアーツとちぎ代表)